旧ブログで大変好評だったため、前後編に分けて更新致します。

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宇部商のエース・木村真樹の魅力は左腕から繰り出されるカーブ、シュートの切れが良く、三振の山を築き上げるところにある。新チーム結成以来、154イニングを投げ、奪った三振は157。1試合における最多奪三振も14。これには玉国光男監督やチームメイトも「宇部商に木村あり」と口を揃えて言った。2年夏は精神的な甘さもあったが、試合を積み重ねるたびに成長。制球力が付き、精神面でも強くなっていった。秋の中国大会では初戦で西条農に1-3で敗退。翌春の選抜出場は絶望的となったが、それでも木村は甲子園に向け、50段ある神社の階段を走り、肩車をしながら足腰や精神面を鍛え上げた。その努力が実ったのか、翌春の選抜に出場することが決定。大観衆の前での「快感」に向け、木村は徐々にエンジンをかけ始めていった。

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(画像)得意球のカーブ、シュートで三振の山を築き上げる木村。奪った三振の数はイニング数を上回った。

初戦の相手は堀越だったが、木村は苦戦を強いられる。1回表、宇部商は寺岡の遊安打などで無死2、3塁のチャンスを作ったが、田村、力丸が連続三振。続く木村までもが三振に打ち取られ、無得点に終わった。これで木村は気落ちしたのか、その裏にエース・竹内寛(のち鷺宮製作所)に2点本塁打を打たれてしまった。

「いつも僕は立ち上がりが悪いので、仕方がないと思った」

それでも木村は伸びのある速球を内外角に投げ分け、大きく曲がり落ちるカーブで堀越打線を翻弄。2回以降は立ち直ったが、味方打線が竹内の荒れ球に手こずり、序盤の2失点が重くのしかかった。6回表、宇部商は城市が中前打で出塁。続く木村が自らのバットで2塁打を放ち、1点を返したが、9回は2死無走者と追い詰められた。しかし、小松が四球で出塁すると、続く坂本は右中間を破る2塁打。土壇場で同点に追い付き、試合は延長戦に突入した。木村は9回から4連続走者を背負ったが、粘りの投球でサヨナラ負けのピンチを脱した。12回表、宇部商は1死3塁で坂本が2塁打を放ち、3-2で勝利を収めた。試合後、木村はこう話した。

「9回2死まで追い込まれていたけど、諦めなければ勝てるんですね。サヨナラ負けのピンチにも絶対に抑えてやろうと気迫で押しました」

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(画像)初回に2点本塁打を浴びた木村だったが、以降は尻上がりに調子を上げ、堀越打線をわずか2安打に抑え込んだ。


(動画)YouTubeより。1/5~5/5まであります。

【両エースの名字が「木村」のため、ここでは木村真と表記】

3回戦の相手は中京(現・中京大中京)だったが、エース・木村龍治(のち青山学院大→巨人)は立ち上がりから評判通りの快速球を投げ込んだ。一方、木村真も緩急を付けた丁寧な投球で強打の中京打線を8回まで5安打1失点に抑え込んだが、味方打線は木村龍の切れのある直球、変化球に手も足も出ない。8回まで無安打に抑え込まれ、敗戦濃厚となってしまった。9回表、宇部商は先頭打者・伊藤浩が投ゴロ。木村龍の完全試合まで「あと2人」に迫られたが、その夢を西田が打ち破った。右前打で出塁すると、続く坂本が起死回生の2点本塁打を放ち、2-1で準々決勝進出を決めた。

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(画像)最後の打者・伊藤和を打ち取り、マウンド上でガッツポーズをする木村真。まさに劇的なミラクル勝利であった。


(動画)YouTubeより。

準々決勝の相手は宇和島東だったが、木村の腕は既に限界に達しており、甲子園入りするまで投げられる状態ではなかった。それでもエースとしての自覚があったのだろう。球場入りした途端に調子が上がり、8回まで宇和島東打線を6安打2失点に抑え込んだ。打線も木村を盛り立てる。8回表、2死1、3塁で木村が自らのバットで2塁打を放ち、2点を追加すると、続く伊藤も右前打を放ち、1点を追加。この勝ち越しで木村は勝利を確信したが、現実は甘くなかった。9回裏、宇和島東はエース・小川洋(のち専修大)の2塁打などで1点差。木村は1死満塁のピンチを招き、打席には明神毅(のち同志社大)が入る。木村は淡々とストライクを投げ、1球外した後、勝負球の直球を外角に投げ込んだ。明神も必死に食らいついていく。

「粘る明神を打ち取るにはこのボールしかない」

木村は最後の力を振り絞り、打者の膝元を狙ったカーブを投げ込んだ。しかし、判定は「ボール」。これで木村は投げる球がなくなってしまった。それでも内角の直球を投げ込んだが、その瞬間、鋭い金属音がこだました。

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(画像)9回裏、1死満塁で打席には明神。木村(奥)は最後の力を振り絞り、内角の直球を投げ込んだが…。

明神の打球は3塁手の右に転がった。寺岡が必死に飛び込み、グラブを伸ばしたが、無情にもボールはグラブの先をかすめ、外野に抜けていった。その間に同点となり、西田の懸命のバックホームも間に合わなかった。2者が生還し、木村は奈落の底に突き落とされた。4-5xで敗退となり、惜しくも準決勝進出はならなかった。試合後、木村はこう話した。

「8回に再逆転した時は、絶対にいけると思った。昨日の疲れが残っていて速球に球威がなく、カーブも曲がらなかった。木村君(中京)みたいにはなりたくなかったのに」


(動画)YouTubeより。

前日の中京戦では9回1死まで完全試合を演じた木村龍と投げ合い、最後は奇跡の逆転劇で勝利投手になった木村真。今度は自分が逆転サヨナラ負けを体験することになった。自らのバットでリードを奪い、ベスト4まであと3人というところまで漕ぎ着けながらも踏ん張り切れなかったことが悔しかった。振り返ってみれば、苦しい試合の連続だった。9回2死からの同点、延長12回の堀越戦。9回1死まで完全試合という重圧を跳ね返しての中京戦の勝利。そして、宇和島東戦では9回逆転サヨナラ負け。木村は嬉しい勝利と悔しいサヨナラの中で「我慢の投球」を学んだ。甲子園入りしてからの12日間は忘れることのできない毎日だった。

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(画像)力投する木村。前日の中京戦の疲れが残っており、左腕は既に限界に達していた。

すぐに夏に向けての練習が始まった。木村は準々決勝の宇和島東戦でスタミナ不足を痛感し、数日の間隔を置いて200球を投げ込んだ。さらに校門前の坂ではダッシュを繰り返し、下半身も鍛え直した。こうして木村は一歩ずつたくましくなっていった。果たして木村は夏の甲子園に出場することができるのか。また、甲子園の大観衆の前でどのような投球を見せてくれるのか。後編に続く。

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(画像)某アニメの次回予告風にしてみました。今回はここまで。後編もお楽しみに。

▼後編


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・小川洋(野球選手)
・明神毅(野球選手)
・中京 VS 宇部商(名勝負)

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・『甲子園あるある 春のセンバツ編』上杉純也, オークラ出版, 2013年, p.143
・『熱闘!! 甲子園夢伝説 ビッグ・ヒーロー&ゲーム1956~2002』学研, 2002年, p.118
・『別冊宝島454 甲子園名勝負読本 胸を熱くした激闘譜の数々 感動と興奮が今ここに甦る』宝島社, 1999年, pp.158-159
・『20世紀<春&夏の高校野球>完全版 まるわかり甲子園全記録』森岡浩, 新潮社, 2001年, pp.402-403
・『甲子園100年物語』枻出版社, 2015年, p.69
・『夏の高校野球第100回記念 名勝負ランキングベスト100 夏の甲子園、不滅の名場面、激闘シーンを秘蔵写真で一挙掲載!!』ベースボール・マガジン社, 2018年, p.94
・『Sports Graphic Number 883 夏の甲子園 百年の青春。』2015年, 文藝春秋, p.58
・『甲子園 運命の一球』森岡浩, 枻出版社, 2018年, p.129
・『新版1988年 やぁ これは便利だ!甲子園』松尾俊治, ベースボール・マガジン社, 1988年, pp.121-122
・『地域別高校野球シリーズ04 中国の高校野球[岡山、広島、鳥取、島根、山口]』ベースボール・マガジン社, 2013年, p.65
・『高校野球 甲子園出場校事典』森岡浩, 東京堂出版, 1998年, p.127
・『やった!牛鬼打線 宇和島東高センバツ優勝グラフ』愛媛新聞社 宇和島新聞社, 1988年, pp.18-19
・『サンデー毎日臨時増刊 3月19日 第60回選抜高校野球大会号』毎日新聞社, 1988年, p.156
・『輝け甲子園の星 1988・2+3月号 ★第60回選抜高校野球展望特集』日刊スポーツ出版社, 1988年, pp.94-95
・『ホームラン 高校野球 3月号 第60回センバツ大会展望』日本スポーツ出版社, 1988年, p.94
・『毎日グラフ 4月17・24日合併号 青春爆発!! 甲子園 第60回センバツ高校野球総集編』毎日新聞社, 1988年, p.49, p.64, p.72
・『別冊週刊ベースボール陽春号 第60回選抜高校野球大会決算号』ベースボール・マガジン社, 1988年, pp.52-53, p.68, p.80, p.111, pp.133-134
・『輝け甲子園の星 1988・4+5月号 ★第60回センバツ高校野球大会速報』日刊スポーツ出版社, 1988年, p.17, pp.26-27, p.49, p.96
・『報知高校野球 '88センバツ速報◉宇和島東が初出場初優勝』報知新聞社, 1988年, p.67, p.75, p.79
・『輝け甲子園の星 1988・6+7月号 ★特集・心に残ったあの球児』日刊スポーツ出版社, 1988年, p.113
・『ホームラン 高校野球 6+7月号 熱球甲子園 全国高校野球地区予選展望号』日本スポーツ出版社, 1988年, p.104
・『週刊朝日 8月15日号増刊 '88甲子園大会号』朝日新聞社, 1988年, pp.172-173
・『アサヒグラフ増刊 9月5日号 '88甲子園の夏 第70回全国高校野球選手権大会』朝日新聞社, 1988年, p.41, pp.72-73, p.98, p.126
・『週刊ベースボール 9月10日号増刊 第70回全国高校野球総決算号』ベースボール・マガジン社, 1988年, p.57, p.63, p.165, p.179, p.189, p.195
・『輝け甲子園の星 1988・8+9月号 ★第70回全国高校野球選手権記念大会』日刊スポーツ出版社, 1988年, p.26, p.33, p.49, pp.110-111, p.137
・『ホームラン 高校野球 9月号 第70回大会特別記念号』日本スポーツ出版社, 1988年, p.15, p.75, p.88, p.96
・『報知高校野球 '88選手権速報◉広島商6度目のV』報知新聞社, 1988年, p.81, p.95, p.105, p.111
・『'88夏・甲子園の恋人たち 第70回全国高校野球記念大会ヒーロー・ビッグ写真集』学研, 1988年, pp.33-34, p.36
・『輝け甲子園の星特別編集 アイドルスペシャル'88』日刊スポーツ出版社, 1988年, p.36
・『輝け甲子園の星 1988・10+11月号 ★全日本ブラジル遠征+京都国体ふるさと球児特集』日刊スポーツ出版社, 1988年, pp.22-25
・『輝け甲子園の星 1989・2+3月号 ★第61回センバツ高校野球展望特集』日刊スポーツ出版社, 1989年, p.71
・『輝け甲子園の星 1989・4+5月号 ★第61回センバツ高校野球大会速報』日刊スポーツ出版社, 1989年, pp.108-109
・『輝け甲子園の星 1989・6+7月号 ★思い出・ヒーロー・15年』日刊スポーツ出版社, 1989年, pp.36-39
・『朝日新聞デジタル』山口)1年生、2球でヒーローに 宮内の代打逆転弾, 2018年,
https://www.asahi.com/articles/ASL527RM7L52TZNB01K.html(最終閲覧日:2020年1月22日)

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・ 1枚目:『週刊ベースボール 9月10日号増刊 第70回全国高校野球総決算号』ベースボール・マガジン社, 1988年, p.15
・ 2枚目:『報知高校野球 '88選手権速報◉広島商6度目のV』報知新聞社, 1988年, p.10
・ 3枚目:『輝け甲子園の星 1988・4+5月号 ★第60回センバツ高校野球大会速報』日刊スポーツ出版社, 1988年, p.63
・ 4枚目:『YouTube』【昭和63年】中京 対 宇部商業【高校野球】, 2013年,
https://www.youtube.com/watch?v=Mj0024KW4dk
・ 5枚目:『輝け甲子園の星 1988・4+5月号 ★第60回センバツ高校野球大会速報』日刊スポーツ出版社, 1988年, p.17
・ 6枚目:『思い出甲子園 ヒーローと呼ばれたエースたち』日刊スポーツ出版社, 2006年, p.41
・ 7枚目:『Pinterest』出所不明


最後まで目を通して頂きありがとうございました。

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